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- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/09
- メディア: 文庫
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「智に働けば角が立つ。情に棹されれば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれ、画ができる。人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向こう三軒両隣にちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて越す国はあるまい。あれば、人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう」
p.6
「世に住むこと20年にして、住むに甲斐ある世と知った。25年にして明暗は表裏のごとく日のあたるところには屹度影がさすと悟った。30の今日はこう思うている。喜びの深きと憂愈々深く、楽しみの大いなる程苦しみも大きい。これを切り離そうとすると身が持てぬ。片付けようとすれば世が立たぬ。金は大事だ。大事なものが殖えれば寝る間も心配だろう。恋はうれしい。嬉しい恋が積もれば、恋をせぬ昔が帰って恋しかろう。」
p.17
「ひたぶるに濡れて行くわれを、われならず人の姿と思えば、詩にもなる、句にも詠まれる。有体なる己れを忘れつくして純客観に眼をつくる時、始めてわれは画中の人物として、自然の景色と美しき調和を保つ」