中勘助「妙子への手紙」岩波文庫

「私にとって大切なのは過誤の有無よりも先に善悪のありかたである。何らかの規約の厳守ならばパリサイの徒も市井の無頼漢もよくするであろう。何よりも肝要なのは道徳心の無私であり純粋である。深く己の凡下を省みず人間愛の不足をもって道徳的潔癖と過り、郷愿的偏狭に閉じこもってほかの放逸を嫉視するがごときは私のもっとも嫌悪するところである。」p136
「・・・いつぞやの手紙にあなたは私のあなたに対する愛情を盲目的といったね。・・・“無条件”と訂正しておいたつもりだ。・・・私はいかにあなたがかわいくともそのためにあなたの招待を見損なうようなことはいやだ。ただあなたの招待がどんなであろうともそのままがかわいいというのだ。」p155
「あまりに焦燥であることはかえって自ら求めて事を壊すような結果になるからくれぐれも自重してほしいと思う。すてばちやせつな主義などはよしてちょうだい。」p166
「現在ぶつかった問題に全力をつくして善処しなさい。・・・もうすこししんねり強くおなりなさい。・・・もうすこし隠忍自重ということもしなくちゃいけない・親の懐ろに眠る小鳥が羨ましいって?いつでも私にはそういうつもりでいらっしゃい。このあいだそうじゃなかった?晩。私のほうではそうだったのに!」p183-184
「どうせなにもかも私の膝の上でやっているいことだ。」p185
「もっと寛闊になるよう心がけなさい。」p188
「あなたが生まれたことは私に大きな幸福だった。あなたとくらしたことは私に大きな幸福だった。あなたのこれまでにない静かな最後の顔をみたことは私にせめてもの慰めだった。妙子や 三十五年は長かったね。」p200

相当に救われる。。。
谷崎潤一郎と渡辺千萬子の関係もとても羨ましいものだが、中勘助と妙子の関係は非常に理想的。。。